労働契約法研究会答申の大きな柱

―こんな事が、決められようとしています。―

 ◎常設の労使委員会制度の設置―労働組合の機能が低下する。

    ◎解雇の場合の金銭解決制度―不当解雇の横行

   ◎変更解約告知―解雇か賃金低下の選択をさせる制度によって労働条件を使用者側が変更できる

労働契約法研究会答申の多少良いところ

退職時に「辞めてやる」と言った時、いじめられて退職届を出した時の救済

⇒クーリングオフ制度を認める

一、労働契約法全体の流れ

1、「労働契約法」研究会報告書全般に流れる発想

 配転・解雇などの契約ルールについてはっきりさせる事が先決であるというのが、発送にある。そして、それ自体は評価できる。労働条件の劣悪な会社ほど、労働条件は明確ではない。労働契約の明確化は、労働条件の劣悪化を防ぐ作用はある。

 そしてさらに、この「労働契約法」研究会報告では、予測可能性をもっとつけるべきだと言っている。どういうことかというと、労働条件変更が合理的であると裁判所から判断されるのか、不合理的であると裁判所から判断されるのか、または解雇が有効か無効か。それを事前にわかるようにしたいという事である。

2、これまでの労働条件不利益変更における裁判所の判断

 例えば、就業規則が不利益に変更されると、裁判所はこれまでは合理性をキーワードに判断をしている。合理性がある場合には変更する事ができるという考え方をとっていた。しかし、この「合理性」の判断基準は具体的にはわかりづらかった。裁判所も同一事件で、審級によって勝敗がわかれていた。使用者側にも労働者側にも、就業規則の不利益変更問題訴訟が勝訴するか敗訴するかは、わかりにくかった。解雇事件で、解雇無効と判断されるのか、有効と判断されるのかもわかりにくかった。

 

3、労働契約法の内容は、「解雇しやすいように」「労働条件を変更しやすいように」予測可能性をつけることになっている

 わかりやすくする、それ自体は良い事のようなきがするが、問題はどういうところで予測可能性をつけるのか。この内容が問題である。この「労働契約法」研究会報告の内容は、解雇しやすいように、労働条件を変更しやすいように、予測可能性をつけるという事になっている。そして、このために、かえって予測可能性がつけずらくなっているところもある。

全体評価としては、こんなのが出来たら労働事件が負け続ける感じがする

4、成果主義賃金・不安定雇用労働者の創出は、労働契約法を必要としているのか?

労働契約法制が必要だと、研究会報告書は言う。その限りではそのとおり。

背景も、表面的に見たらそれはそうだと思う。しかし、ではそのためにどういう内容を設定するのかという事とはまったく別問題である。

就業形態や職業意識の多様化・・・

 結局のところ、不安定雇用労働者の増加であり、一部金をもうける人が現われたという事に過ぎない。表面的にこういっても、中身を考えると、ほんとうにそうか???という事になる。

5、就業規則が嫌だからといって入社を断わる人はいない。就業規則による明文化が、労働契約の尊重になるのか??

労使自治の尊重と実質的対等性の確保・・・本当にそうなるのか??

就業規則に明文化しろと言っているが、入社する時に、就業規則が嫌だと言って入社しない人はいない。

労使自治の尊重と言っても、労働契約で決めた事は尊重すると読み替える事ができる。

6、労働契約法は任意規定である。

「労働契約法」研究会最終報告書もルールをはっきりすると言っている。紛争を未然に防止するために、推定規定や任意規定を作成するというのである。

 因みに、労働基準法は強行規定である。どのような雇用主であっても、労働基準法以下の労働条件で働かせてはいけない。法律に罰則規定があり、遵守しなければいけないものが、強行規定である。強行規定である場合には、違反する規定は無効である。

 しかし、労働契約法は任意規定として作成されている。任意規定であるので、労働契約法に書いてあっても、合意を優先する。規定が働くのは、合意が無い場合である。

 そして、ここでいう、合意とは、就業規則に記載されている内容である。つまり、就業規則に配転の場合を明記してあれば、その規定が優先する。

あらかじめ通知したから従え、という事になる。但し、この結果、紛争は未然に防止できる。が・・・

7.就業規則遵守が労使で合意したと「みなされる」労働契約法

 労働契約法制の中では、就業規則が合理的な内容を欠く場合を除いて、就業規則を守る事が労使で合意したとみなす。と書いてあるが、本当にそれでいいのか。「みなされる」という事は、労働者が合意していないと主張しても、法的に通らなくなることである。つまり、配置転換について就業規則に記載されていれば、労働者は応じないと言えないのである。

@こんな場合はどうなるのか

 小さい事業所では、配転・出向は無い。しかし、小さい事業所が30年経過して大きくなり、配転・出向が必要となったと仮定すると、どういう問題が発生するのか。30年前に作成された就業規則には確かに、「配転には応じなければならない」「出向には応じなければならない」と記載されていたとする。しかし、労働者にとっては、事業所規模からいって、配転・出向が無いので、この就業規則の規定に自分も拘束されていることを意識しない。このような場合が、「合意」であるのかどうか。

A条項により、はっきりさせた中身の弊害除去が書かれていないと、権限の拡大になってしまう。

条項をつくると、ケースによる判断が出来ず、争いが無くなる。

結局、入社の時に就業規則が嫌だと言うと、採用されないだけになる。

ルール化、明確化は、逆に「就業規則に書いて置けばよい」という事になる。

はっきりさせたほうが良いとは思う。出来の悪い就業規則であっても、それに経営者が反してはならないと言う限りでは、はっきりさせたほうが良い。

はっきりさせた中身、その弊害をどのように除去するかと言う事が出ていないと、権限を拡大するという方向に働く。

 

二、具体的内容

1、労使委員会制度―どのような機能が与えられているのか

労使委員会制度というのは、労働条件不利益変更を合理性あるものとする内容など、多岐にわたる。労使委員会で決議すると合理性のあるものとして「推定」するということになっている。解雇・配転・の場合、労使委員会の議題にしてOKとなった場合、合理的な解雇・配転であると推定される。さらに、解雇が合理的といえず、無効となっても、金銭解決によって紛争は終了する。金額についてもあらかじめ労使委員会で設定した金額となる。

 

2、労使委員会制度―合理的推定がされる場合

 労使委員会の五分の4以上の多数により、不利益変更が合理的であると推定される。5分の4という数字は、使用者側が全員賛成、労働者側の過半数の賛成という数字である。仮に労使委員会が10名で構成される場合、8名が賛成すれば成立する。5名の使用者側は全員賛成であるし、5名の労働者代表の中には、課長等の管理職も含まれるとすると労働者代表といえども経営側の意を汲む人が3名以上入ることも十分に想定できる。そう考えると、5分の4の賛成という数字は簡単な数字である。

 @過半数の労働組合がある場合は、過半数の同意をもって不利益変更が成立する。

 A過半数の労働組合がない場合は、労使委員会の同意をもって不利益変更が成立する。

 

3、労使委員会制度―これまでの判例と異なる観点

 これは、今までの裁判とは違う観点である。

これまでの判例で、みちのく銀行事件―70%の組織率のくみあいの同意があっても内容面から不利益変更は認められなかった。

労働契約法成立により、この判例は死んでしまう。

 

4、労使委員会制度―労働組合との違い

労使委員会とは、労働者と使用者の制度である。労働者の組織ではない。労働契約法研究会答申では、選挙のやり方については「民主的方法で行なう事」と記載されている。しかし、選挙が民主的に行なわれれば良いという問題ではない。

労働組合との違いは日常活動が無い、と言う事である。日常活動が無ければ、日常的意思形成がされない。更に、労使委員会には決議機関も執行機関も無い。労使委員に選任されると、その後は、本人のフリーハンドになる。他の労働者の監視が効かない。他の労働者との意思疎通も関係ない。

 もし仮に、労働組合の役員が労働組合員の意思と異なる労使協定なり、団体交渉による合意を行なった場合、その組合役員は次年度大会で役員を下ろされるか降りるなり、せざるを得なくなる。労働組合の団体交渉担当役員は、労働組合員の意思を反映するシステムになっている。

しかし、労使委員会の労働者側委員にはそのシステムが存在しない。

労働側委員の自主性も問題となる。多様な労働者には管理職も含まれる。このため、労使委員会における労働側委員は、実質的な労働者代表制とはなり得ない。言葉を変えると、労使委員会は産業報告会と同じである。

 

5、労使委員会―ドイツの労働者委員会との違い

ドイツでは、労働者委員会が労働組合とは別に存在するが、議決に基づく労働者の組織となっている。解雇を経営側と協議するが、議決機関も執行機関もあり、労働者との日常的意思疎通がされている。

        コラム ドイツの労働者委員会制度について

6、労使委員会創設により、労働組合はどうなるか

労働契約法施行以降の少数組合との団体交渉は、労働条件変更についてとても厳しい。

多数組合との団体交渉においては、同意が必要となるので、切り崩して少数派にしようとする経営者も現れる可能性が強い。

不当労働行為に組合が勝利しても、労使委員会で決められた、整理解雇は無効にならない。不当労働行為が誘発される可能性がある。

使用者側が意図的に労使委員会制度に移す事もある。

 

7.労使委員会―合理性の推定

現行法でも、就業規則ようりも有利な労働契約が成立する・しかし、今後、就業規則に書いておけばよくなる。

労働条件変更は就業規則に合理性があれば合意があると推定する。

多数派組合の合意、労使委員会の合意で、合理的であると推定される。

 

8.裁判で合理性の推定を覆す場合の困難性

合理性が無い事を証明すれば覆るが、労働者側が合理性の無い事を立証しなければならない。現在、灰色領域は使用者側の不利益だが、今後は、灰色領域が労働者側の不利益になる。

 

9.変更解約告知(雇用継続型契約変更制度)

 ドイツでは、労働者が不利益変更に同意しない場合に解雇できる。解雇できる事が前提であるが、労働者委員会で異議権がある。労働者委員会の異議があると、解雇できない。

労働契約法では、ドイツの制度を取り払って導入される。問題は、労働条件変更申し入れに応じない解雇である。これまでの判例では出来なかったことを合法化しようとしている。名称は雇用継続型契約変更制度である。

会社が労働条件の変更を申し入れ、NOであれば解雇である。労働者はNOと言える代わりに、使用者は解雇できる。変更について、争う権利を留保して、同意する事が出来る。変更された労働条件で働き訴えを出す事になる。

解雇が不利益変更の2者選択を回避できるというが、問題点は、労働者が訴訟を出さないといけない。そして、訴訟を選ばない人が多いのは予想できるので、訴訟を選ばない人が多い中で相場が形成される。

労働条件不利益変更の合理性の問題が争われる場合、労働条件が下がっても、相場よりも高いか安いかと言う問題される。その意味での不利益は否めない。

         

10.解雇の金銭解決

現在、解雇権濫用の判断において、時効がないので、10年後、20年後であっても訴訟が出来る。

しかし、解雇が無効となった場合の金銭解決ではどうなるのか。

  労働者が金銭解決を望む場合は、解雇された労働者が居ない状態が固定化され、戻りにくい状態があるしかし、これは労働者側の原因ではなく、使用者側の原因である。

  「労働契約法」は使用者側の申立を認めている。そして、これには除外項目があるが、使用者側の金銭解決の申立が出来ない項目からは、不当労働行為が抜けている。

 

三、労働契約法制定までの歴史的過程

現在の労使環境が、労働基準法労働組合法に規程された環境とは異なっている。

1、労働組合法制定当事考えられていた労働条件の一般的拘束力

労働組合法制定当時は、労働組合法をつくり、労働基準法を最低条件として、労働組合が獲得した労働条件を一般的拘束力として地域・職場に拡張していく方針であった。従って、この規程が現在でも労働組合法に残っている。

   

2、労働組合機能が低下した条件

労働組合法の考え方は、数年で変更されて、公務員の除外規定ができ、争議・組合活動の正当性が狭められて、労働協約の破棄も出来るようになった。

この結果、労働組合の機能が低下し、労働組合による相場形成機能が低下した。そして、非正規雇用労働者が増加した。

労働組合法制定当時、年頭に置かれていた正規労働者の減少により、集団的労使関係のあり方が変化してきた。

但し、20%の労組組織率は必ずしも少ないわけではない。

   

 

3、労働条件不利益変更は何故行われるようになったのか

個別的労働関係では、就業規則の不利益変更が多く現れている。

企業が危機に陥った場合、社長が変更した場合などの、労働条件の変更がある。これらは、労働組合と交渉すべきことである。本当に必要であれば、交渉しなければならない、労働組合の存在によって、容易に解雇できない環境は出来ていた。

昭和20年代、30年代の大量解雇事件は、経営側にも大きな教訓となり、きちんとした処理が必要であるとして認識された。それは、労働組合との協議であり、整理解雇の4要件が判例として取り入れられた事である。昭和30年代〜昭和50年代あたりが相場形成であった。

そして、この解雇の条件が、使用者側には制約となり、容易に首を切れない=労働条件を低下させるとなった。

 

労働組合の機能が低下したと、労働契約法を制定する理由に挙がられているが、労働契約法の労使委員会で労働組合の機能は本当に低下する。

 

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